徒然なる科学日記

日常で気になった現象を科学的な視点で解説します

研究に便利なフリーソフトの紹介

お金はないけど第一原理計算をしてみたい、熱力学計算をしてみたい。そんな要望が誰にでもあると思います。

そこで本記事では私が知っている便利なフリーソフトについて紹介したいと思います。新しいものを発見次第追加していこうと考えていますので、読者の方からも情報お待ちしております。 

 

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熱力学編

ある物質が安定に存在するかどうかやある反応が進むかどうかは、対象物質の熱力学関数(ギブズの自由エネルギーやヘルムホルツの自由エネルギー)がわかっていれば熱力学計算によって知ることができます。しかし、物質の熱力学関数は比熱測定などによって実験的に測定されるため、我々のように断熱型熱量計などの高度な機材を持たない人は測定できません。

 

でも大丈夫!これらの重要な熱力学関数は様々な研究機関がデータベースとしてまとめており、一般に公開されているものもあります。また、これらのデータベースをつかい、様々な熱力学計算をしてくれるソフトウェアも有料・無料の様々なものが販売・公開されております。今回はそのうち無料で利用できるものを紹介したいと思います。

 

・PHREEQC

フリークシーと読みます。水溶液系に強い熱力学計算ソフトです。デフォルトである程度データベースがそろっているのでインストールしてすぐに使えます。PHREEQCはコマンドラインから実行するソフトなのでGUIに慣れたWindowsユーザーは少しとっつきにくいかもしれません。

https://wwwbrr.cr.usgs.gov/projects/GWC_coupled/phreeqc/

 

また、PHREEQCにはE-pH図(pourbaix図)や化学ポテンシャル図などを作図する機能がありません。そこで、これらの機能を補うためのソフトウェアが公開されています。その名もPhreePlot、PHREEQCと共にインストールして使用します。なお、PhreePlotで計算した結果を表示するためにはGhostscriptとGSviewという別のソフトが必要になるのでこれらもインストールしましょう。

http://www.phreeplot.org/

追記:解説記事を書きました

phreeplotの使い方 - 徒然なる科学日記

 

・FactSage

 FactSageは有料のソフトなのですが、機能を限定したWeb版が公開されています。FactSageのページの右側のメニューにFACT WEBという項目があります。これをクリックするとオンラインでFactSageの機能の一部が使えます。簡単なことしかできないので高度な計算を行いたい人はFactSageを購入しましょう。(たぶんとても高い…)

http://www.factsage.com/

 

 

NASA CEA

 気相反応に強い熱力学計算ソフトです。アメリカ航空宇宙局がロケットの推進剤の研究を行うために開発されたソフトウェアで現在では無料で公開されています。

https://www.grc.nasa.gov/www/CEAWeb/

 

第一原理計算編

 第一原理計算とは物理法則の第一原理、すなわち量子力学の基礎方程式から物質の様々な性質を数値計算することです。バンドの分散図(E-k図)や状態密度(DOS)などの計算でお馴染みです。2018年現在では第一原理計算といえばDensity Functional Theory (DFT)のことを指すことが多いです。DFTでは多電子系のSchrödinger方程式を解く困難を避けて、電子密度から波動関数を計算するという手法をとっています。

VASPやCASTEP、Gaussianといった有料のソフトウェアが有名ですし、機能も充実していますがフリーのソフトウェアも存在します。

 

※第一原理計算ソフトウェアは無料でもスーパーコンピューターは無料というわけにはいかないので大規模な計算はそもそもできないかも…

 

・OpenMX

 日本の研究チームによって開発されているオープンソースのDFT計算パッケージです。日本語マニュアルが充実しているので日本人にはありがたいソフトウェアです。ただし、使える汎関数の種類が少なく痒いところに手が届かないかもしれません。

http://www.openmx-square.org/

 

・Abinit

 有名なフリーのDFT計算パッケージです。最近はGW近似の機能も実装されて便利になっているみたいです。

https://www.abinit.org/

 

・QUANTUM ESPRESSO 

よく知らないのですが無料で使えるDFT計算パッケージらしいです。MD計算やGW近似、TDDFTなどの機能が使えるようです。

https://www.quantum-espresso.org/

 

作図編

複雑な有機化合物の構造式や無機化合物の結晶構造は言葉で説明しても伝わらないもの…。そんな時に活躍するのが可視化ソフトです。

 

・VESTA

結晶構造を可視化するソフトウェアです。配位多面体を表示したり、特定の結晶面で切ったりと様々な表示ができます。このソフトを使用して作成した図を論文や発表などで使用する際には規約に書かれている論文を引用しなければならないので注意。

https://jp-minerals.org/vesta/jp/

 

・ChemSketch

有機化合物の構造式から実験装置の作図まで幅広くカバーしている無料の作図ソフト。

メールアドレスの登録が必要。

https://www.acdlabs.com/resources/freeware/chemsketch/

 

・ImageJ

元々は生化学における電気泳動の結果を解析するためのソフトとして開発されたものです。基本的な画像編集から画像解析まで行えます。画像中の粒子の粒度分布を計算することもできます。

https://imagej.nih.gov/ij/

 

CAD編

3DCADを使って機械の設計をしたり、回路CADを使ってプリント基板の設計をしたりすることはオリジナル装置を作製する為の必須すきるです。無料CADを使ってガンガン設計してオリジナルの実験装置を作りましょう!

 

Fusion360

有料の3DCADですが機能を削った無料版が利用可能です。パーツを接合した場合の動きなどもシミュレートできます。

https://www.autodesk.co.jp/products/fusion-360/overview

 

・DesignSpark PCB

電子部品販売店RSコンポーネンツが公開している回路CADです。プリント基板や切削基盤の設計、ガーバーデータの出力などができます。

https://www.rs-online.com/designspark/pcb-software-jp

 

・DsdignSpark Mechanical

DesignSpark PCBと同じくRSコンポーネンツの3DCADです。機能はやや寂しいですがシンプルなUIなので混乱が少ないと思います。

https://www.rs-online.com/designspark/mechanical-software-jp

 

 

 

その他

情報が入り次第更新します。

 

リートベルト解析編

粉末X線回折のデータから結晶構造精密化を行う解析ソフト

・RIETAN

泉富士夫先生が開発している無料のリートベルト解析ソフト。このソフトを使用して出版物を書く際には規約にある論文を引用しなければならないことに注意。

http://fujioizumi.verse.jp/download/download.html

 

文献管理編

 大量に収集した論文の管理が大変!論文執筆中に引用文献を追加したら引用番号が全てずれてしまった!

こんな問題を解決してくれるのが文献管理・論文管理ソフトです。

・Mendeley

有名な論文管理ソフトで多くの研究者が実際に使っていると思われます。論文のPDFをドラッグ&ドロップするだけで情報が読み込まれます。Microsoft Wordと連携して効率的に引用文献を文中に挿入することができます。

Mendeley - Reference Management Software & Researcher Network