徒然なる科学日記

日常で気になった現象を科学的な視点で解説します

球技における球の運動エネルギーについて

走り書きのメモ程度ですが様々な球技における球の最高速度と質量から球の運動エネルギーを算出してみました。

動機

世の中には球技がありますが、どの球が当たった時に最も体へのダメージが大きいだろうか?ということを考えていた時にふと「人間が投げる物体ならばどのような大きさ重さのものであろうともおおよそ同程度の運動エネルギーしか与えられないのではないか?」という疑問が浮かんだのです。

そこで様々な球技で用いられている球の質量と最高速度を調べE=1/2 mv^2の公式から運動エネルギーを求めて比較してみました。

 

結果

まずは様々な球技に用いられる球の質量を見てみましょう。

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球の質量一覧

ゴルフボールやテニスボールのように50 g程度のものからサッカーボールやハンドボールのように450 g程度のものまで様々です。

次に各球技の最高速度の記録を見てみましょう。

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最高速度

やはり軽い球ほど速い速度で発射することができるという傾向が見られます。また意外ですが野球ボールを投げた場合とバットで打った場合の速度はそこまで大きく違わないようです。通常のイメージですと打球の方が圧倒的に遠くへ飛ばせる気がしてしまいますが、プロ野球選手が投球方法を極めると打球の速度に迫ることができるようです。

 

最後に各球技における球の運動エネルギーを見てみましょう。

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運動エネルギー

なんと、あれほど多種多様な質量と速度を持っていた球技達がサッカーを除いてほぼ同じ運動エネルギーをもっていることがわかりました!サッカーを除く7種目の運動エネルギーの平均は約171 J(ジュール)でした。また正規分布を仮定したときの標準偏差は23.6 J程度なので標準偏差÷平均値で表される変動係数は0.14程度となります。これは平均から±14%以内に特定の球技の運動エネルギーが入る確率が7割程度であることを示しています。要するにどの競技でもかなり似た値になるということです。ただしソフトボールは若干他の競技よりも運動エネルギーが低いようです。これはソフトボールで定められている投球フォームが球を早く投げるのに適していないということを示しているのかもしれません。

一方でサッカーは他の競技の3倍もの運動エネルギーを持っていることがわかりました。これは恐らく腕と足の筋肉量の差に起因すると考えられます。また、サッカーにおいては助走をつけてボールを蹴ることができるのでその影響もあるかもしれません。

結論

球を人間が投げたり打ったりしたときの球の運動エネルギーは腕を用いた場合は球の種類や道具の有無に関わらず171 J程度のエネルギーを持つことがわかりました。またサッカーの場合は足を用いて球を蹴りだしているため、腕を用いる競技の約3倍の運動エネルギーとなることがわかりました。

 

家庭で急速冷凍を試してみた

 


はじめに

魚の刺身を冷凍保存したいけど一回冷凍した魚は美味しくなくなってしまう…。と思っている方多いですよね?私もそう思っていました。

しかし、実際にはスーパーや飲食店で提供されているマグロの刺身はほとんどが遠洋漁業で漁獲されて一旦冷凍されたものです。http://www.uomaru.co.jp/column/column_05.html

こちらのサイトによると日本で流通しているマグロの約8割が冷凍マグロだそうです。

それなのにマグロの刺身はまるで生の魚のような触感ですよね?

これは急速冷凍という技術が使われているために冷凍しても味や触感が変わらないのだそうです。急速冷凍で美味しくなる理由は後述します。

 

通常急速冷凍は超低温の業務用冷蔵庫などを用いて行われますが家庭でも不可能ではありません。以下のリタイヤ親父さんのサイトを参考にしました。

https://blog.goo.ne.jp/kusa-kun/e/7764770f3ebf2fc8b0ed79671d737705

 

この方はエタノールの熱容量と熱伝導率の高さを利用して家庭用冷蔵庫で急速冷凍を行っていました。このような手法を液体凍結と呼びます。二番煎じではあるのですが、実際に急速冷凍と通常冷凍でどれほど味の差があるのか気になったので実験してみました。

急速冷凍の手法

リタイヤ親父さんの手法を踏襲してプラスチック製のタッパー(3.2 L)に消毒用エタノール(70%)を入れ、冷凍庫で静置しました。その時のエタノールの温度変化がこちらです。

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図1. エタノールの冷却曲線

 

図1から12時間ほど待てば冷凍庫のカタログスペックである-18℃程度まで冷えてくれることがわかりました。

 

次に刺身を冷凍用に加工します。食べ物が直接エタノールに触れるのは嫌なのでジップロックのような封止ができるポリ袋に約5mm厚の鯛の刺身を入れます。更に刺身の冷却曲線を測定するために熱電対を差込みました。

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図2. ジップロックに入れた鯛の切身

 

この試料を2つ作製し、急速冷凍と通常冷凍の冷却速度を比較しました。

 

冷却速度の比較

一般的に30分以内に0〜-5℃の最大氷結晶生成帯を通過すれば急速冷凍と言えるようですので30分以内を目標とします。

以下の図に通常冷凍と急速冷凍の場合の鯛の刺身の冷却曲線を示します。

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図3. 鯛の刺身(5mm厚)の冷凍曲線。急速冷凍(青線)と通常冷凍(橙線)。

 

急速冷凍の場合は0〜-5℃の最大氷結晶生成帯を僅か4分程で通過していることが分かります。一方で通常冷凍でも急速冷凍より時間が掛かっているとは言え、28分ほどで冷凍が完了しています。

これは刺身の厚みが薄かったために速く凍ったものと考えられます。

 

これとは別に直径2cm程度の魚肉ソーセージの冷却曲線も測定しました。こちらは試料の厚みがあるので通常冷凍と急速冷凍で冷却速度の差が顕著に見られました。

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図4. 魚肉ソーセージの冷却曲線。急速冷凍(青線)と通常冷凍(橙線)。

 

通常冷凍と急速冷凍での味の違い

さて、いよいよ冷凍した刺身を解凍して食べたいと思います。解凍は40℃のぬるま湯に刺身をジップロックごと漬けて迅速に行いました。

通常冷凍してから解凍した刺身と急速冷凍してから解凍した刺身の写真を以下の図に示します。左が通常冷凍で右が急速冷凍です。

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図5. 通常冷凍後に解凍した刺身(左)と急速冷凍後に解凍した刺身(右)

 

見た目にはあまり違いが分かりませんでした。しかし味は違うはず!

 

…と思ったのですがどちらの刺身も生の時と変わらない食感で美味しかったです。恐らく試料の厚みが薄かったために通常冷凍でも30分以内に冷凍が完了してしまったのが原因と考えられます。美味しいならそれで良いじゃないという意見もありますがやはり違いが出てくれた方が嬉しいですね…。

 

魚肉ソーセージの実験では通常冷凍の場合100分程度かかっていたので次は切身ではなく塊のまま冷凍して違いを検証してみたいと思います。

 

今回は以上です。


2019/05/13追記


刺身では緩慢冷凍と急速冷凍であまり違いが出なかったので差が付きやすそうな野菜で試してみました。

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 左が緩慢冷凍のキュウリ、右が急速冷凍です。温水で急速解凍して硬さの比較をします。


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左の緩慢冷凍のキュウリはふにゃふにゃになっている一方で右の急速冷凍のキュウリは比較的元の形を保っています。硬さを調べるために箸でつまんでみました。

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通常冷凍の方はやはり凍結の際に細胞壁や細胞膜が壊れてしまったのでしょう。ぐんにゃりしています。


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一方で急速冷凍の方はシャキッとしてますね。


刺身ではものが薄すぎて通常冷凍でも早く凍ってしまったため違いが分かりませんでしたが、ある程度の大きさを持った食材だとエタノールによる急速冷凍の恩恵を受けられることがわかりました。


皆さんもチャレンジしてみてはいかがでしょうか?


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私は知識を得ることは好きですが、それらの知識をアウトプットすることが苦手です。

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従って、私が持つほんの些細な知識でも共有できれば誰かしらの役に立つのでは無いかと思いこのブログを開設しました。

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